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6話 相容れる事の出来ない二人

Penulis: 空蝉ゆあん
last update Terakhir Diperbarui: 2025-10-14 08:00:07

月夜の姿が風と共に消えていく。元の空間に置き去りにされたルルアは、前世の記憶を手にする前とは確実に変化した。心がざわついて、安定する事が出来ない。今までのルルアとしての自分ならこんな感情を抱く事はなかっただろう。

一つの体に自分とは違う人格《じんかく》が生まれた。受け入れるかどうかを決めきれないルルアは、ただその姿を呆然《ぼうぜん》と見る事しか出来なかった。そんな姿を見ている月夜は困ったように微笑むと、最低限《さいていげん》のサポートを発動させていく。

「私にはこれくらいしか出来ない」

彼女に見せないように結界《けっかい》を張り、詠唱《えいしょう》していく。聞いた事のない言語で呪文《じゅもん》を唱《とな》えると、空間の流れが極端《きょくたん》に遅くなっていく。結界の中に時間が止まった状態で立っているロザンの姿が残っている。月夜はソッと彼の頬に手を添えると、耳元である呪《のろ》いを呟いた。

月夜の存在はルルアにとっては光の道へと示《しめ》す守り神。しかしロザンにとっては全く正反対の意味を持つ存在として認識《にんしき》される事になる。毒に毒を注ぐと、中和《ちゅうわ》されて慣れていく。いや正確には麻痺《まひ》していくのだ。

「君は幾ら望んでも元の立ち位置に戻る事は出来ないだろう。それは君が自ら望んだ未来の形だ。幾ら姿を変えて転生したとしても、同じ結果しか生まれないーー」

ロザンは月夜の姿を目視《もくし》出来ないが、あの魔法陣を見てしまった。闇に染まったはずの彼にあの光景が見えているのなら、何かしらの術《じゅつ》と誰かの干渉《かんしょう》によりロザンとしてやり直すきっかけを与えられたのだろう。

しかしルルアが居る限り、彼に明るい未来は訪《おとず》れないーー

「本来転生者は一人のみ。それが二人も選ばれる……それが何を意味するのか理解出来ているのか?」

記憶を持ちながら生きる事が出来るロザンと転生前の記憶を失う事でより強い精神力と肉体を手に入れる事が出来たルルン。二人が同じ道を仲間として、友人として、姉弟として、恋人として……歩む事は出来ない。天使の介入《かいにゅう》があったから、このような新しい物語に作り変えられているだけだろう。

「ロザン……君にはさっきの光景や私に繋がる記憶を全て封《ふう》じさせてもらう。悪く思わないでくれ」

彼にこの言葉が届く事はない。本来《ほんらい》二人が生きている世界は月夜と繋がる事も、対話《たいわ》する事も出来ない切り離《はな》された世界だから。ロザンが天使の恩恵《おんけい》を受けているように、ルルアにもそれと同等、いやそれ以上の恩恵《おんけい》が必要だと考えた。

そしてルルアの元に辿《たど》り着く事が出来た秘剣《ひけん》ミツルギは本当の姿を取り戻し「月夜《つきよ》」と名乗り神の一員として彼女に力と失った記憶の復元《ふくげん》をしたのだ。月夜として彼女と話していた最後に見えた光景は、残酷な未来の姿でしかない。

未来を変えようとしても、結局は修正《しゅうせい》が入る。その結果何度もあの二人は同じ事を繰り返している。ルルアが手にできるのは一つ前の前世の記憶のみ。それ以上は巻き戻す事は不可能だろう。それをしてしまうと、世界を保っている秩序《ちつじょ》が崩《くず》れて、崩壊を早めてしまうからだった。

複数の世界を束ねる時間軸を止める事で、天使の介入《かいにゅう》を阻止《そし》する事が出来る。これは月夜にしか出来ない御業《みわざ》だろう。秘剣《ひけん》ミツルギに宿る蛇神として、本当の意味で覚醒《かくせい》した瞬間だった。

「天使よ、お前が神の化身《けしん》になるのなら、私はこの世界の蛇神《じゃがん》として、信託《しんたく》として生き続ける事を誓《ちか》おう。いつかお前と会える、その日を楽しみにしているぞ」

ロザンを通して天使サミエルに最後の手紙を送った。言霊《ことだま》で作られているメッセージはいくら天使と言えど動揺《どうよう》するだろう。何故ならサミエルが最も尊敬《そんけい》する神と同じ力を使用しているのだから。自分の立ち位置とサミエルの立場を突き放す事により、これ以上の勝手は許さないと忠告《ちゅうこく》した事にもなる。

全ての準備を終えると、最後にロザンの額《ひたい》に手を翳《かざ》し、この部屋で見た景色の排除《はいじょ》を進めていく。ルルアは月夜の全てを見る事を許された存在、だがロザンは違った。彼の記憶を違う行動へと書き換えると、不敵《ふてき》な笑《え》みを零し、本来《ほんらい》の居場所へと消えて行った。

□□

急に現実に引き戻されたルルアは休んでいた空間へ戻されていた。隠れるように存在していたあの部屋は姿を消し、ただ存在しているのは壁のみ。夢のようで夢ではない。そう感じる事は出来るけど、本当の所は彼女にも分からない。

「……何だったんだろう」

「何が?」

疑問を口にすると、後ろから声が聞こえた。ルルアは飛び上がると「ヒエッ」と叫び声をあげる。振り返った先にロザンが不思議そうに見ている姿があった。幽霊《ゆうれい》を見ているような表情をしてしまったルルアは、何事もなかったように表情を切り替《か》えていく。

「なんでこんな所で突っ立っているんだ?」

「うーん。どうしてだろう」

「おいおい」

ロザンの様子を見ると、あの部屋の事は知らないみたいだった。自分の意識《いしき》が月夜《つきよ》の元へ飛んでいく前にロザンの声が聞こえたのだが、気の所為《せい》だったみたい。あんな体験をして、彼にどう説明したらいいのか考えていたが、この様子なら言わなくてもいいだろう。そう判断《はんだん》したルルアは、後ろ向きな気持ちを隠《かく》して、ロザンに笑顔を見せた。

「寝ぼけてたのかも。気がついたらここに……」

ベッドから離れて、壁《かべ》に話しかけているように見えてしまう。こんな言い訳しか思いつかない。複雑《ふくざつ》な気持ちを抑《おさ》えて、彼との会話を楽しむ事にする。最初、戸惑《とまど》っていたロザンも、いつものルルアに戻ったのを確認すると、安心したように胸を撫《な》で下ろした。

「そろそろ行くか。村長が工房に来てくれと言っていたし」

「そうなの? あたし聞いてない」

「そりゃそうだろう。お前寝てたし……」

テヘヘと舌を出し、悪戯《いたずら》っ子のような雰囲気《ふんいき》を出していく。そんなルルアの頭にポンと手を置くと、ナデナデ攻撃《こうげき》が始まった。

弟としてしか見ていなかったロザンが、なんだか格好《かっこう》良く見えてくる。いつもと違った彼の大人の表情に心は荒《あ》れていくーー

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